とあるサーカスのマドンナだったラナンキュラス。
彼女がスターの座を捨てて、慣れ親しんだ場所を捨て、駆け落ちしたほどの人・・・
それが彼「でぶっちょさん」。

彼はサーカスの軽業師でした。
このからだからは思いもよらぬスピードと軽やかさで、
人々を熱狂させるすごい存在だったんですよ。

でもなぜ?でぶっちょなからだで軽業師?
ちょっと不思議な話ですよね。


でぶっちょさんは、生まれた時からでぶっちょさん。
いつもニコニコ愛らしい彼は、みんなの愛情をいっぱい受けて育ちました。

そして彼も世界中のみんなを愛していました。
彼のまわりはいつも(たとえ森の奥にいても)おひさまの匂いがしたものです。


でも、大きなおなかが邪魔をして、小さな花を踏んでしまったり、
時にバランスを崩してコロコロ転がる彼のからだは
小さな友達を傷つけてしまいました。

彼はとてもとても悲しくて、悲しくて悲しくて・・・消えてしまいたいと思いました。
でも、この大きなからだは消えません。
それならば、何ができるのか・・・
彼は、地面に触れないで歩きたいと思いたったんです。

・・・・・・そんなこと無理ですよねえ。
でも、彼はほんとうにそう思ったんです。
ほんとうにそう思った人は、少しずつでもそこに近づいていくのです。

つまさきのその先でバランスをとってジャンプして、木の枝を渡り
地面がよく見えるように手の指のその先でそっと地面について

そしてふわっと体重を消して草の上に降り立って

そんなふうに軽やかに、しなやかに
動きまわれるようになりました。

そしてある時から彼のポケットに住み着いた
友達のクモが張る糸を使って
綱渡りや空中ブランコのように、あらゆるところへ移動もできるようになりました。

彼のまわりには、いつも小さなともだちが一緒におりました。
彼のそばにいたら、それだけで幸せになれるものだから。


彼は世界のすべてを愛していました。


でも彼は恋というものは知らなかったのです。
とあるサーカスに彼が入ってきてすぐに、ラナンキュラスが彼に恋をしても、
彼は全く気づきませんでした。

それでも彼は、彼だけが、ラナンキュラスに贈りつづけていたのです。
ほんとうの愛する気持ちを。
彼にとってそれはクモや天道虫に対する気持ちと同じでしたが
ほんとうの愛でした。


ラナンキュラスが彼に恋した時、人間の皆はそりゃあおどろきました。
でも、彼女の恋は、ごく自然に生まれたのです。

彼が恋に気づいてくれるまで、
時間はかかりましたけどもね。


ラナンキュラスとでぶっちょさんは、これからもずっと幸せです。
今はそこそこな町に住み、かわった森で満月の夜にショーをくりひろげているそうです。
小さな友だちもいつも一緒にいるようですよ。





 番外編