夢を見ました。


夢の中で私は
あの人を抱きしめていました。


私には望むことなど何も無いと思っていましたが
ひとつだけあったのです。

この両腕であの人を抱きしめたいと
私は思っていたのです。

もうずっと、忘れていたのだけれど。


私はあの人の匂いを、鼓動を、知っています。
抱きしめてもらう温もりも、誰よりも知っているのです。

それでも、どうしても、
この両腕で抱きしめてみたかった。
あの人のからだだけでなく、心まで包んで伝えたかった。
何があっても大丈夫だと、決して孤独にさせないと。


初めて抱きしめたあの人のからだは
とても冷たく
泣いているように震えていました。
・・・震えていたのは私でしょうか。


私は知っています。
このひとりよがりな思いが伝わることはないのだと。

たとえ夢の中でも。


それでもふっと
あの人が安らいでいるように
微笑んでいるように
思える瞬間がありました。

私は幸せな気持ちで満たされました。
そしてそのままふたりで眠ったのです。


満月の夜。
ある猫が見た夢のお話。






 番外編