ラナンキュラスに恋していた青年は、もうひとりおりました。 

サーカスのアコーディオン弾き。彼女が去った日から彼は、
彼女を想って夜毎ひとりアコーディオンを奏で続けておりました。



ある夏の夜、彼のアコーディオンのジャバラから、ぴょんと魚が飛び出したのです。
魚は言いました。「想う人がいますね。そんなあなたの演奏はとても素晴らしい。
毎晩聞かせてくれたお礼に、私がその人の元へあなたの想いを届けましょう。」
彼は心の奥を読まれたようで少し恥ずかしくなりました。

彼の心の奥底には「この想いを伝えていたら、もしかしたら・・・」という気持ちがあったのです。
毎晩その後悔を、やるせなくそして熱い気持ちを抱えて、演奏していたのです。


でも、魚の青い、青い目を長い時間見つめた彼は、静かに言いました。

 
「ありがとう魚さん。でも、いいんだ。旅立つ日の彼女は、今までで一番美しかった。
彼女はとても幸せなんだ。だから、僕は、それでいいんだ。
ありがとう、魚さん。君のおかげで、やっと僕は思い出せた。」


「そうですか。わかりました。それではあなたの想う人の空にこの星を届けましょう。
彼女が夜空を見上げた時に、必ずこの星は輝くでしょう。」


それからも彼は毎夜、アコーディオンを奏でました。
遠い空では、彼の星が輝き・・・そして彼の空にもたくさんの星が輝いておりました。


ある夏の夜のお話です。