彼を助けたい

彼女は出会ってすぐに解りました。
この人のために
出来ることが私にはある。


この人を助けて生きていくことが出来るならば、
どんなにか幸せだろう
なんと誇らしい命となるだろう。

彼女はそう思い、彼と一緒に旅に出ました。
生まれた場所を離れ、本来の生き方を捨てて。

彼女は決めたのです。
彼が望む限りずっと彼のために生きようと。
そのポケットの中で、いつでも彼を想っていようと。


◆◆◆◆

彼女が彼と出会ってから
どれだけの月日が経ったでしょう。

彼は持っているその素晴らしい力を、優しさを発揮して
いろんな場所でいろんな人を笑顔にしてまわります。

涙に暮れる日々を過ごしていた人も
目には輝きが戻り、
あたたかな時間を取り戻すことができるのです。
彼はそういう人でした。

出会うすべての生き物を
自分よりも何よりも、ずっと大切にしている人でした。


「君は僕に奇跡をくれるんだ。
どうしたらお返しができるのだろう。
いくら考えても僕にはわからない。」

彼は彼女のことを
他の人が考える何十倍もの優しさと思いやりで大切にしていたのですが
それでも彼は愛しそうに、悲しそうに、
彼女を見つめて語りかけるのでした。

「ありがとう。と言うことしか
僕には出来ないのがとても苦しいよ。」



彼女の言葉は彼には聞こえないので
すべてを伝えることは出来ないのだけれど
彼が悲しい気持ちになると、まぶたにそっとキスをしました。

彼はそれにも気付けないのだけれど、
何か安心することが出来て、また微笑むことが出来るのです。


彼女にはこれ以上の望みなどありませんでした。


◆◆◆◆

蜘蛛の命は何年でしょうか
1年?5年?それとも10年?


ほんとうの想いは運命を、
少しずつでもそこに近づけていくのです。
想いは彼女のすべてを変えました。


彼が眠る時間になると、
彼女はそっとポケットから出て
ひんやりつめたい場所に落ち着き
自分のための糸を紡ぎます。


胸にあふれる誇らしい気持ちと
ほんの少しの痛みで紡ぐその糸は
それは美しいものでした。



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