その23◆8月の郵便配達 の話。の1。




夏の始まりとともに・・・・

そこそこ町のあちこちで「かわり種の森」という言葉が聞こえてくるようになったのよ。



しかも楽しそうに、嬉しそうに話をしている人が多いんだよね。

・・・なんとも不思議だよねえ。


かつてのブームは夢であったかのように
そこそこ町の住人のみなさん いつもはさ
まったく興味を示さないのに、あっても無いように暮らしているのに・・・

いまごろなぜに?なぜなのさ?

◆◆◆

そして・・・7月も終わりに近づくと
森の中にも人がやってくるようになったんだけど

それがね・・・みんな・・・なんていうんだろう・・・


町で楽しそうに話していた人たちとは
またちょっと違う雰囲気でね、

なんていうのかなあ・・・
ひとり物憂げに空を眺めている・・・とっても近寄りがたい・・・
そんな人たちなんだよねえ。

◆◆◆

そんなある夕方
女の子の家のベンチに、知らない紳士が腰掛けてた。



「おや、こんにちは、おじょうちゃん。 ここはきみの家ですか?
すまないね。無断で休ませてもらいましたよ。」

やさしそうなおじいちゃん。

「あ・・・どうぞ気にしないでゆっくり休んでいってください。」

「 ありがとう。   

夏がはじまると、気持ちがソワソワしてしまってどうにも落ち着きませんね。
8月になってからだと わかっているのだけれど
どうにも待ちきれなくてね。今日もついつい来てしまいました。」

・・・・・
やっぱり何かあるんだわ!

「待ちきれないって・・・ここで何があるんですか?」

女の子の胸はドキドキ。


「おや?おじょうちゃんは、8月の郵便配達を迎えるのは初めてですか?
そうか、そうか。
楽しみにしていなさい。夢のようなことが起きますよ。」


おじいちゃんはそう言ってにっこり笑ったんだよね。
女の子はそれ以上は何も聞けなかったのよ。

不思議はつのるばかり。


◆◆◆

さて、次の日、パン屋さんへ配達に向かう女の子は、ワゴンのお店に気がついた。

この町でこんなお店見るの、はじめてだなあ。





「さあさあ。 そこの娘さんもいかがですか?
綺麗なレターセットばかりですよ。
8月には新しい便箋に 気持ちを書いて贈りましょう!」


8月には?・・・・昨日のおじいちゃんが言ってた「8月の郵便配達」のためかしら?
みんなそれを楽しみにしているのかしら・・・でも、なんで、かわり種の森が関係あるんだろう?

手紙を出すのは郵便局だし、届くのは家にだよねえ?


◆◆◆

パン屋のおじさんは知ってるかしら?
女の子は聞いてみた。
おじさんはいつもとちょっと違う表情で
ゆっくり話はじめたんだ。



「8月になるとね、かわり種の森には、特別な郵便配達がやってくるんだよ。



その郵便配達は、どこからでも、
その人の 『一番会いたい人』 からの手紙を運んできてくれるんだ。
そしてね、返事も届けてくれるから
みんな新しい便箋やちいさな贈り物を用意してこの季節を待つんだよ。」


「・・・でもどうして森になの?それぞれの人の家にじゃないんですか?」

「うーんそうだよねえ・・・
たぶん・・・ものごとにはふさわしい場所っていうのがあるんだろうね。」



女の子にはまだちょっとピンとこなかったんだけど、なんだか胸がきゅっとなった。



そしてみんなが待ちわびた8月がやってきたんだ。