小さい画をクリックすると下の画が変わります。
◆8月のお話◆

みなさん、かわり種の森に8月になるとやってくる郵便屋さんのことはご存知ですよね。
え!?ご存知ない?・・・いえいえいいんですよ、どうぞお気になさらずに。
その方が嬉しいぐらいでね。だって、もう一度お話することができるじゃないですか!

◆◆◆

8月に訪れるのは、いつもと違う郵便配達です。
それはどこからでも、どこへでも、一番会いたい人への便りを運んでくれる郵便屋さんなのです。

いつからここにやってくるようになったのか・・・
かわり種の森ができてからなのか・・・
もしかしたらそれよりずっと前からこの場所にやってきてたのか・・・
それを知っている人はいないみたいです。
ただね、「そこそこ町」の一部の人たちは、特別な郵便のことを知っていて
毎年そりゃあ楽しみにしているんです。

8月が近づくと、そこそこ町のあちこちで
楽しげに、でもひっそりと、こんな会話がひろがります。

「もうすぐですわね」
「わたし、新しい便箋を買ったんですよ」
「写真を一緒に送ろうと思ってね、久しぶりに写真館へ行ってきたんですよ。
もちろんその前には散髪もすませてね」
「私は春に咲いた花の押し花を、一緒に送ろうと思っているんですよ」
「ぼくは今年こそは告白をしようと思っているんです」

老婦人は少女のように
少年は紳士のように
郵便配達を迎えます。

郵便屋さんの姿が見えると、ひとびとは何も話さなくなります。
そして受け取った手紙を大事に大事に胸に抱いて
すぐに家へ帰るのです。

中には森の奥の誰もいないところを探してそこで封を開ける人もいるようです。

愛しい人からの愛しい言葉たちとの時間
胸が踊るような痛むような
苦しいような熱い心

そして夜になるころにはみんな机に向かって
手紙の返事を書くのです。

明日も郵便屋さんは来てくれます。みんなの思いを届けに空を泳いでいくでしょう。


女の子も、もうすぐはじめてのその手紙を受け取るみたいです!