その25◆8月の郵便配達 の話。の3。



魚たちがいなくなると、
森はいつもの森になったんだよね。

マダムたちは、手紙を大切そうにしまうと
じっと見つめる女の子に気がついた。



「お嬢ちゃんにも手紙が届いたのね。」


「良かったじゃないか。嬉しいだろう?」


女の子はどうしても不思議で、マダムたちに聞いてみた


「おばあさんたちは、どうしてたくさんの手紙を受け取っていたんですか?

・・・私、聞いたんです。8月の郵便配達は
『そのひとの 『一番会いたい人』 からの手紙を運んできてくれる』 って。
他のひとたちも、一通だけ受け取ってたみたいだけど・・・」


「数というものにはね、あまり意味がないの。

一番はひとつとはかぎらない。

わたしたちにとっては、このひとたちみんなが
『一番会いたい人』 なのよ。」


「もちろん、多いからいいってもんじゃない。
ただね、わたしたちには、たくさんの時間があったんだ。

たくさんのひとと出会った。大切に思った。
愛は消えるものじゃないんだ。増えていくんだよ。」



マダムはやさしかった。
(こわいほうのマダムもびっくりするぐらいやさしかった。)


女の子は、
泣きそうになったんだけども泣いちゃあいけないなと思ってこらえたんだ。
なんでだかわからないんだけど。

◆◆◆

「お嬢ちゃん、明日も明後日も、郵便配達は来るのよ。
手紙の返事を届けてくれるから
良かったらこれをお使いなさい。」

マダムはとても綺麗なレターセットをくれたんだ。




◇◇◇◇◇

お手紙、ありがとうございました。
とても嬉しかったです。


わたしは元気です。

一人暮らしも順調です・・・と言いたいところですが、
驚かないでください、実は、
とてもかわった ウカウカさんというひと(?)が下宿人になって、
一緒に暮らしているんです。

ウカウカさんは、森に喫茶店をひらいたんですよ。
お父ちゃんが気に入りそうな、落ち着ける場所です。

私は大家さんなので、
毎日美味しい珈琲を一杯ごちそうになれるんです。

森には少しかわったひと(?)たちがやってきます。
ともだちもできました。


商売のほうですが、
お父ちゃんの「かわり種」の野菜で作ったジャムは
そこそこ町で人気がでて
だんだん売り上げも伸びてきました。
花はだめです、売れません。

そこそこ町にも、知り合いが増えました。
いろんなことを教えてもらっています。

みんなと一緒に、明日も元気にがんばります。


P.S お母ちゃんに、「どうして料理を教えてくれなかったのよ」
と、伝えてください。
いつかじっくり教えてください。

◇◇◇◇◇


女の子は封筒に、ジャムのラベルや布地もいれて
そっとなでるみたいに封をした。

◆◆◆


夜中に目をさますと、部屋の隅の机に向かうウカウカさんの姿があったのよ。




ウカウカさんにも
一番会いたいひと(?)がいたんだよね。
女の子はね、なんだか、みんないっしょなんだなあって
なんだろうね、よくわかんないんだけど、
少し
さびしくなくなったんだって。




そうして、かわり種の森の夏は静かに過ぎていきました。